怪奇ジャン手男

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西海中の一学年上に「ジャン手の中尾」の異名を持つティーチャーという男がいた。
ジャン手というのは文字通りデカイ手のことで、この男は手が異様にでかかった。他はやせっぽっちだった。ただ背はあった。しかし眉毛がなかった。おまけに前歯が出ていた。その代わり足は滅茶苦茶速かった。だが、おでこの血管はハンパなく浮き上がっていた。とはいうものの3年生の頃生徒会長に君臨していた。といっても真っ白の体操ズボンに履いてた柄パンがくっきり浮き出てしまいクラスメートからは「ティーチャーのガラパン」とからかわれて半泣きになっていた。

僕は一年生の頃、生徒会でジャン手と知り合った。生徒会なんか絶対接点がないので行くことはないと思っていたが、よりにもよって1学期の学級委員にされてしまったのだ。二年生の学級委員がジャン手だった。
生徒会がまたえらいどうしょうもない場で、毎週行われる委員会の会議なんかほとんど遊びだった。
会長のとっさんは、小学校の先輩なので知り合いだったが、副会長以下隣村の面子なので知らん顔もチラホラ。そんなえらい場へ放り込まれたばっかりに、代表とかが苦手な僕はなんとか脱出を試みるが、毎回このジャン手に捕まって、掌に入れられたままの状態で顧問の先生に引き渡されめちゃ説教される日々を送っていたのだ。
しかも、ジャン手の同級生で二年生なのに三年生に混じってうっかり当選してしまったワジンと呼ばれる男がまた相当の曲者であった。
ワジンは毎回委員会の始まる前に出席をとるのだが、毎度毎度おかしい。
「はいでは出席をとります。(会長)とっしィ~。(副会長)かっずゥ~」
と年上の皆さんに勝手に自分で言いやすいような名をつけて、しかもちょっと色っぽく呼んでやがるのだ。そしてその後「(渉外)たかし!」と突然声変わって呼び捨てる。このたかしと呼び捨てにされた男も勿論ワジンの一つ上のお兄さんだ。ワジンはそんな上下関係ビクともしなかった。それは田舎の学校ゆえの暗黙のしきたりというか敬語抜きの世界に生きる強い男の姿勢であった。
ジャン手は「ティーチャー」と呼ばれていたが、いまだに俺はその意味がわからない。というか教えてもらったかもしれないが覚えてない。
あまりにもふざけた出席に、顧問の先生・マイティーが、「こら和田(ワジン)、先輩呼び捨てびせんとちゃんと出席をとらんか!」と一喝すると、ワジン一度は謝って取り直すが、議題が始まると「とっしィ~の意見はどうよ?」「たかしはどう思うお前?」とかやりたい放題。またしてもマイティーに怒られると「すいませんちょっとふざけすぎました。ねえたかし」とまったく反省がない。俺は毎回その光景にケタケタ笑うだけだったが気を抜くとワジンから「何笑いよるんど、まじめにやらんか」と怒られるのだが、よく見るとワジンの鼻の穴には消しゴムが詰まっていたりと、新人達にもサービス満点だった。(※ちなみにマイティーの由来は単に井上という名前の先生だったからと。)

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まあ話題がワジンにそれてしまったが、ある日僕が生徒会室でサンコミックスの『猫又』を隠れて読んでいたら、後からジャン手がビヨオーンと伸びてきて『猫又』を取り上げていきよった。そして眉のないドデカイ目玉をひんむいて、読み更けだした。僕が「ちょっとちょっと中尾さん」と突っこむと、ジャン手、見開いたまま、「これ貸してくれ」と言い出した。僕は目玉の迫力に負け、すんなり従ったが、それっきり『猫又』は返ってくる気配がなく1学期終わり、ついでに2学期まで終わってしまった。そこで俺はジャン手に年賀状を書いた。文面に「あけましておめでとうございます。今表で猫が鳴いてます」といった意味深な内容だった。数日うちにジャン手から年賀が届き「猫又は無事だ」と殴り書きされていたのでホッとした。しかしそのハガキはいかにもどこかの懸賞に応募しようとしてやめたのがバレバレの消しまくった跡がクッキリ残る官製ハガキだった。

ジャン手の最高傑作といえば、謎の『ジャン手BOX』だ。
技術家庭科という授業で、針金やダンボール、板を利用し、動く車を作ったことがあったのだが、ジャン手だけはその規定に反して車を却下した。そして代りに何を作ったかといえば、箱に針金のハンドルが付いており、それを右に回転さすと、箱の中から飛び出した「ジャン手」(自分の手を模ったペラ紙)が逆方向に動くというかなり気色の悪い箱だった。そしてその箱には「題名『ジャン手BOX』」と書かれた紙が敷かれてあった。
一月ほどこの気色悪いジャン手BOXは木工室に展示されていたが、他の生徒の車たちと混じってかなり異色な存在であった。
僕らは、ハンドルを回してジャン手が動くたびに、気づけば僕らの首も同方向へ回転し、やがて「…アホやがな」と言ってその場を去っていった。

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    Excerpt:                           79年頃の西海町・船越湾。とんでもない物が引き上げられた。 Weblog: 黒のマガジン racked: 2008-08-29 13:22