残った人3

Y=ヤク中。

その死んだ青山さんと共に、編集部のリーダーとしておったのが『自殺されちゃった僕』の著者Yである。
この本を読むと、Yさんは最愛の奥さんにも死なれ、相当低迷してて再起不能かとまで思われたほど弱っていた。

Yさんは、『危ない1号』編集長当時(97~98年頃)、薬が原因なのか確かに狂っていたようにも思えた。
しかし、「僕なんかキチガイだからね」とは言うものの、自分でキチガイと言っていたので多分キチガイじゃなかったのだろう。
覚醒し切れてない時は突然怒鳴ったり不機嫌になったりと、おっそろしい面もあったが、覚醒してようやく現実にもどった時は、必ず「さっきはごめんね」と誤ったり、仕事が暇な日に、僕にタバコを買いに行かせたりする際に「くだらないお願いして悪いんだけど…」と気遣ってみせたりと優しい一面もあった。
でもやっぱり薬が切れると怖かった。
そのことを青山さんは知ってか「あいつ怖いだろ?」とカマかけてきて「怖い時ありますね」と答えれば、いつもの調子で「アッハハハハ~」と大笑いする。一方のYさんも青山さんの話になると「どうしようもなくってね~フフフフ・・・」てな感じ。お互い相手の内情をよく理解してるのが伝わる笑いだった。
しかし、そんな怖いYさんも、僕がそこをクビになるまで、毎月かかさなかったことがある。
といっても別に大したことではないが、青林堂から直送する「ガロ」を、自分が読み終わった後に、僕の机の上に置いてくれていたのだ。しかも僕がいない時間を見計らったように、気がつけば置いていた。
事の発端は、バイト始めた頃、Yさんの机に放置してあった「ガロ」の最新号を「読んでいいですか?」と断って持って行ったのがきっかけで、それから毎月机の上に置いてくれるようになったのである。
他にも、自分の住んでるアパートに風呂がないと言う話をしたら、既に物置と化していた編集事務所の風呂場を業者を呼んで使えるようにしてくれた。もっともYさん本人が泊りがけの仕事になった時用に使おうと思ったのが始まりなのだが、実際Yさんより僕のほうが確実に使用量が多かった。なんせ夏なんか毎日入っていたのだから。
Yさんはそれだけでなく、「肌に合わない」という身体的な理由から、買い込んでいた洗剤をわざわざ全部持ってきて僕にくれたりもした。
そういった親切な面も見せながら、その反面は全くクソの役にも立たない僕の存在が邪魔くさかったと思う。それが証拠にYさんに下についてるバイトの顔ぶれは僕以外にもよく変化していた。

やがてYさんは、僕が本社へ異動した直後結婚した。
奥さんは当時かなりマニアックな人しか知らない某出版社へ勤めていたが、僕は変人で、高校時代からそこの出版物を読んでいた(といっても地方には売ってなかったため、春&夏休みに大阪へ遊びに来た際に買っていた)ので知っていた。
青林堂といい、そこといい、やっぱりマニアックな横のつながりがあるんだな~と感心したものである。
毎日のように編集者の女性から電話がかかり、いつも僕が取り次いでいたので自然と名前も覚えていた。しかし、それが後の奥さんになる方とは知らず、打合せと称して出て行くYさんのデートも、なんの疑いもなく見送っていたように思う。

一度Yさんが行方不明になった事件があった。
丁度青山さんが復帰し、本社で仕事を始める準備をしていた頃だった。すると今度はYさんが来なくなってしまったのだ。
元々Yさんは、「体調が悪い」を理由によく休んでいたので驚きはしなかった。しかし、それでも必ず編集部には連絡を入れていたというのに、三日ほど音信普通になり、さすがに編集部内緊迫していた。
やがて女子のライターが心配になり、自宅まで行って見てくると言い出した。確かに死んでたら怖い。ほんまに危ない1号だ。女史ライターは、妄想狂なのか実際そんな話を聞いたのか「青山さんがYさんを殺すって言ってた」とかとんでもないことを言い出し、田舎物の僕をドン引きさせていた。しかしあの青山さんからそういうことができるとは到底思えなかった。
そして、キッチンでしゃがみこんだまま何か考え事をしたまま動かなくなってしまった女史は、「大丈夫だよ」と言って全然心配していない先輩編集者の静止も聞かず、「あたしが救出に行ってきます!」と言って編集部を飛び出した。

ところが、1時間ほど経った時に、Y本人から電話がかかってきた。
どうにもこうにも食中毒になってしまい動けなかったという有様のようで、心配ないので家には来させないでくれとのこと。
覚醒してない時のことを考えるとライターが自宅まで行ってボコボコにされたりしたら大変だ。急いでライターを捕まえ、(当時携帯電話を持っていたのは彼女だけであった)アパートが目の前というとこで引き返させた。
別の編集者によると、この女史とYさんは当時デキていたという噂もあったが、真相は不明だ・・・というか知りたくもないがな…。
勝手な推測ではあるが、この時、というか三日間、Yさんは彼女の部屋にいたのではないだろうか。
本を読んで知ったのではあるが、Yさんは仕事が終わると彼女の部屋へ直行していたそうだ。どうりでYさん宅へ電話をかけて繋がったことはまずなかった。

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                             クスリではなくメシを食え!


勝手に時効と判断から白状するが、一度タルワキ君と新宿で飲んでて終電を逃し、編集部へ忍び込み、始発までだべってたことがある。
僕はこの最中にYさんが入ってきたら、確実にクビになるなと直感していたので、合鍵でタルを招き入れて、一応Yの家に電話を入れている。しかしやはり留守電。いや、これだけではなく、何かにつけ仕事以外に勝手に忍び込んでミニコミなんぞ作っていたのだが、その度に連絡していた。しかし捕まったためしはなかった。
・・・そうか、彼は自分ちへ帰らず彼女のとこへ通っていたのだ。



僕が最後にYさんから頼まれた「くだらないお願い」は、レイブに行く際に持っていく寝袋を買ってくるというものだった。この編集部はそっち系(ドラッグ&テクノ&トランス好きの人)の人しか居なかったので、それが普通なのだろうと思い、新宿で買い物して帰った。しかし会場でYさんは(まあそれが当然なのだが)非合法な行為でトリップしていた。

Yさんも青山さんも通常の人間と目の色と肌の色が違っていた。目の色は薄く、肌の色は逆に濃かった。その色はド方焼けとも異なる土気色で、例えるなら、自分の身内が死んだ時の顔の色、もしくは死ぬ直前の色とクリソツだった。僕は陰ながら「二人とも大丈夫だろうか?」と心配しながら接触していた。しかし二人とも奥さんをもらい、仕事をしているので、僕なんかが心配するほどのものではなかった。
しかしやがて青山さんは本当に死んでしまい、Yさんは奥さんに死なれうつ病になってしまった。

そして今。
残った人=Yさんは生かされている。
この本には、僕が働いていた当時とはまるで別人のようなYさんの「ただ弱いだけ」の一面が全編から伝わり、その弱さをまるで毛嫌いするかのような否定的な解説(精神科医が書いている)もくっつけられている。
確かに本だけ読んだらただのキチガイの嘆きにも思われる作品かもしれない。
しかし、少しでも接触していた輩からすると、表現はありきたりだが、Yという人物の人間の部分があからさまに公開されているのだ。キチガイのYしか知らない僕は、結構な衝撃であった。
Yさんからすると、僕なんぞに読まれるのは心外で屈辱だろう。
しかし、まずもうないだろうが、この次、何らかのきっかけで再会する様な事があれば、Yさんの若干顔の色も変わっているかもしれない。そうなってることを願ってしまう読後であった。

まだまだY&青山に関しては色々楽しい思い出なんかもあるが、またの機会に。


おわり

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