限界集落をまた語る。

夏なので、ちょっと怖い話をしますが‥

●そりゃ仕方ないよ、限界だもの。謎のサラリーマンの巻
僕の地元はくどいようですが現役の限界集落である。
だからどしたってことではないのだが、お子様の頃の謎の思い出をちょっと大人になって理解するということがたまにあった。

80年代初期、僕は真っ当に生きる小学生のお子様だった。
そして、おうち近辺は今に比べまだ人間の数は多かった。
ある日、おっ母とともに、犬の散歩かなんかしてた帰りのことだ。近所の民宿に、サラリーマン風の見知らぬ男性が、その店先で予約なしの宿泊の交渉をしていた。民宿の若女将が対応していたが、なぜか目が泳いでいた。と、同時に、うちの母もなぜかその様子をコワイ顔で凝視している。そして、そないジロジロ見んでもよかろうがな、と思っている僕に、小声で「あの人泊まるつもりやろうか‥?」とささやいた後、やたら不振な顔しながらそのまま家路へと消えて行った。
確かに、なんかおかしかった。本来なら、こんな集落へ観光客が泊まりにくるだけでもありがたい話だというのに、若女将とその後出て来た大女将もなんか歓迎しているそぶりではなく妙にいそいそしていたのを記憶している。
しかし、そんなことも忘れてしまった翌日の午後、母が突然「昨日の男の人、さっき帰って行ったで」と、別にせんでもいい報告をしてきた。
なんなんだこれは? あのサラリーマン風の男の人がそんなに怪しかったのか? イヤそんなことはない、むしろ普通の人すぎて、酒臭いいごっそうばっかりのうちの集落じゃ逆に不審者だ‥あ!そういうことなのか???
この村ではスーツ姿がもう違和感の塊なのだ。うちの親父ですら朝は一応スーツでご出勤するが、帰りは必ず野球のユニフォームで帰ってたぐらいだからやっぱりおかしな村だ。そんな村に突然現れたザ・スーツ。しかも単独の宿泊。それはまさに異界からの使徒そのものであった‥と、当時の僕は勝手に解釈した。

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●そういうことか‥
やがて、そんなことも忘れて約8年ほど経った頃、その民宿の店先の海岸に防波堤が建築され、道路が若干広くなる工事が始まった。
民宿の目の前には海が広がっていたものの、申し訳程度の築港とガードレールのしきりしかなく、冬の大時化なんか塩水がもろ店先までぶち上がったりして結構そこを通行するのも困難だった。しかも潮風と山風が空中で一体化し、民宿の庭の一部分にかまいたちが発生し、小一から新聞配達をしていた僕は、冬になると自転車の買い物かごに入れていた新聞をこのかまいたちに全部持って行かれ、泣く泣く天に舞う新聞と広告を眺めながら家に帰って、母にめちゃ怒られたりもした。「すんませんが子供が新聞を飛ばしてしまって‥」と、新聞発送店に電話している母親の背中に「飛ばしたのは俺じゃないわ!かまいたちや!」と反論したが、新聞店のおっちゃんには届かなかっただろう。

ま、そんなことはどうでもいいが、とりあえず防波堤だ。この防波堤が出来たことによって、あの時なぜ、民宿の女将やうちの母がサラリーマン風の男に怪訝な顔をしていたかの謎が解けたのだった。
それはつまりこういう事件があったのだ。
70年代の話、ある日、サラリーマン風の男の人が一人で現れ、その民宿へ泊まった。
翌日、民宿の女将が朝ご飯の用意ができたので、客室へ行くと、そこには誰もいなかった。しかし、荷物は置いてあるので、女将は朝の散歩でもしているのだろうと思ったそうだ。
ところが、昼過ぎになっても客は帰ってこない。これはおかしいと思った女将が、近所に探しに歩いたが、どこにもそんな人は来てないという。狭い村なので、一軒一軒訪ねて歩いてもたかが知れてるし、集落の人間なんてみんな兄弟みたいなもんだから、よそ者がいたら絶対印象に残るはず。それなのに目撃情報すらないという。はてさてこれはひょっとして道に迷ったか、もしくはわりと観光地として有名な、もひとつ隣の集落まで歩いて行ったかな‥? と考えながら民宿へ戻ろうとした所へ沖の漁から帰って来たのであろう、近所の釣り船屋のだんなが全速力でかけて来た。そして女将にまさかの一言を告げたのだった。
「あんたんとこの家の前のガードレールに男の人が首吊っちょるが‥」

宿泊した男の人は、死に場所を探す旅に出て、終着駅がこの平和な土地だったのだ。
集落始まって以来のこのぶっとんだ事件のトラウマから、村の人は見知らぬサラリーマン風の男の来訪に対してちょっと身構え、あんな態度になってしまうのだそうだ。
ガードレールが外され防波堤が出来ることによって、母から「その昔あそこのガードレールに‥」というその実話を聞かされ、ただでさえオバケが怖い高校生の僕はドン引きしてしまったのだった。
幸い第二のサラリーマン風の男は、首を吊ることもなければ行方不明になることもなく、ごくごく普通な旅人として、(多分)笑顔で集落を後にした。
しかし、それから約二十年後、民宿の若女将が山で首を吊った。

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